第42回「みぎわ賞」受賞作品
(佐伯裕子選)
春を往く 保坂真寿美
嫁ぎ日に連れ立ちきたる電化製品つぎつぎ壊れ時の重さに
ただひとつ残りくれしは父母と選んだ電子レンジ(レンジ) ワインレッドの
大声は暴力だから刃から目を逸らさない 負けになるから
もう一度見ておかなくては子と並び真底の闇に光ホタルを
父母のたましいと見ゆ闇の中さまよう我の瞳(め)に灯をともす
さよならが音符となってこぼれ落ち明日は出でゆくピアノを弾きぬ
君が弾き私が弾いた思い出を耳に残してYAMAHAに返す
六月は雨 それでなくても悲しいのに置いてゆくものばかり数える
いつかまた 母に貰いし白いカラーしばらくながめ振り返らない
夕暮れを子らが帰ればわたくしも片付かぬままの荷物のひとつ
総務への転居届けはひそやかに出せどもすぐに異動が決まる
女子多き店舗に移り口角を上げねばならぬに始まる月曜
旧姓に戻せば軽くなるだろう 子が嫁ぐまでお揃いのまま
はつ物は寿命がのびると口ぐせの母と食べたし見目好き秋刀魚
夕光(ゆうかげ)に白くけぶれるすすきの穂ひとり立つとはさびしき覚悟
ふゆ空は低くひくうく降りてきて雪になれない水滴らす
散りきらぬ薔薇の葉を摘み眠りへと誘いている ここは安全
車窓からスマホで撮りし夕空をさよならにかえ送りくる君
帰り来るふるさとになるいつだって強いと言われるたびに笑って
黄に満ちるミモザを胸に肌寒い弥生の朝を歩きはじめる

